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クローン病について
- 治療法や診断方法、食事などを
総合的に解説! -

【監修】北里大学医学部 消化器内科学 横山薫 先生

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炎症性腸疾患の一つであるクローン病は、近年患者数が増加し続けている難病です。若年層に発症することが多く、全身の消化管に炎症が発症する上に根本的に治癒させる方法が確立されていません。自覚症状があらわれ、クローン病の発症が疑われる場合はまず受診することが大切です。

クローン病(Crohn’s Disease)とは?

クローン病は消化管粘膜(ねんまく)※1に原因不明の炎症(えんしょう)※2や潰瘍(かいよう)※3が生じる疾患です。潰瘍性大腸炎の病変はほとんどの場合、大腸(の粘膜)に限られますが、クローン病の場合、発生しやすい場所は小腸や大腸ではあるものの、ときには、口、食道、胃、十二指腸にも点々と炎症が起こる可能性があります。
免疫システムの異常によって引き起こされると考えられていますが正確な原因は分かっておらず、根治的な治療法はまだ見つかっていません。

この「クローン」という病名は、この病気を最初に報告したアメリカの医師の名前にちなんで名づけられました。

クローン病で炎症が起こる場所
  • ※1

    腸や胃・食道の内側を覆っている組織でからだの内外を隔てている膜

  • ※2

    からだの一部が熱を持ったり赤くはれたり痛んだりすること

  • ※3

    粘膜や皮膚の表面が炎症を起こしてくずれできた傷が、深くえぐれたようになった状態

クローン病でみられる主な症状と合併症

ここでは、クローン病の主な症状と起こりうる合併症について解説します。

主な初期の自覚症状は腹痛と下痢

クローン病の主な初期症状は、腹痛と下痢です。これらは半数以上の患者さんにみられ、さらに発熱や体重減少、貧血などの症状が起きることもあります。腹痛は炎症が起こりやすい大腸と小腸の境目付近に当たる右下腹部に多く発生します。ただし、潰瘍性大腸炎で多くみられる血便は、クローン病ではあまり多くみられないので併せて覚えておきましょう。

腸管や腸管外に合併症が起こりうる

クローン病では、以下のようなケースで腸管や腸管外に合併症が起きる可能性があります。

慢性炎症による瘢痕(はんこん)※4

瘢痕とは、炎症が治ると残る傷あとのことです。慢性炎症は瘢痕を残して治癒が進むので、炎症部分の収縮や引きつれにより合併症を起こすことがあります。

炎症の進行

大腸の広範囲にわたってクローン病が進行した場合、炎症も広範囲にわたって発生する可能性があり、その場合は下血※5が起こり得ます。また、腸壁を貫通する深い潰瘍により、膿瘍(のうよう)※6や穿孔(せんこう)※7を生じることもあります。

炎症との関連が明らかでないものもある

その他、炎症との関連が明らかでない以下のような合併症も起こり得ます。

● 瘻孔(ろうこう)

腸のような管腔臓器の間に生じる管状の欠損のことです。瘻孔は2種類あり、腸と膀胱や腸の異なった2つの部分がつながる「内瘻」と、腸と皮膚がつながってしまう「外瘻」があります。

● 狭窄(きょうさく)

腸は管状の構造を持っているため、瘢痕が残ることで腸内が狭まり狭窄が起こります。狭窄が悪化することで閉塞を起こす場合もあります。

● 肛門病変(外瘻の一種も含まれる)

肛門の皮膚の裂傷や肛門膿瘍、痔瘻(じろう)などの合併症が起きることもあります。

上記の他、まれに大量の出血や小腸がん、大腸がんや肛門がんなどが発生することもあります。クローン病では口から肛門までの消化管のどこにでも炎症が生じる可能性があり、潰瘍性大腸炎よりも病変が現れる範囲は広い傾向があると言えるでしょう。

クローン病の詳しい症状については、こちらのページを参照してください。

  • ※4

    潰瘍が治る過程で、炎症部分が収縮・引きつれを起こすこと

  • ※5

    腸内の出血により古い血が混ざって黒い便が出ること

  • ※6

    組織の隙間に膿が貯まること

  • ※7

    消化管に空いた穴のこと

クローン病の検査や診断方法

ここでは、クローン病の検査や診断方法について解説します。

検査には血液検査や便検査が行われる

クローン病の検査には、血液検査や便検査などが挙げられます。

血液検査

病状が寛解(かんかい)※8したか否かの確認や再燃・合併症の早期確認のために行われます。具体的には炎症の有無や貧血の有無、栄養状態を確認します。

便検査

1日~2日分の便を採取し、便に血液が混じっていないかを検査します。

内視鏡検査

大腸内視鏡検査では、大腸から小腸の回腸末端部までの粘膜を内視鏡で確認し、瘻孔や狭窄、潰瘍やびらんなどの有無や位置を確認します。また、クローン病は消化管のどこにでも発生する可能性があるため、口から行う胃・十二指腸内視鏡検査も実施されます。

X線造影検査

造影剤を使用し、大腸から小腸を中心とした消化管全体を確認します。X線造影検査では、病変の位置や広がりを確認できます。上記のような検査を組み合わせることで、クローン病の総合的な病状把握を行います。

  • ※8

    完全にではないが病状が収まること

クローン病の診断までの手順

クローン病の主な自覚症状は腹痛や下痢、全身倦怠感があります。若年者にこれらの症状が慢性的にみられるケースや、感染性腸炎などの類似の疾患を除外できるケースでは、クローン病を疑います。肛門所見などの理学的所見や血液検査・細菌培養検査・寄生虫学的検査と並行して、医師は薬の服用歴や海外への渡航歴、今までにかかったことがある病気などを確認します。その後上部・小腸・大腸内視鏡検査や小腸・注腸X線造影検査やCT、MRI検査を実施し、確定診断に至らない場合は経過観察を実施します。

クローン病の詳しい検査についてはこちらのページを参照してください。

クローン病の経過タイプ

ここでは、クローン病の経過タイプについて解説します。

活動期と寛解期を繰り返す

クローン病の経過における特徴として、活動期と寛解期を繰り返すことが挙げられます。「活動期」とは炎症が活発に発生している時期のことで、「寛解期」とは炎症が収まっている時期のことです。クローン病には根本的に治癒できる治療方法が無いため、投薬や検査を行い長期寛解を保つケースが多いと言えます。

炎症の範囲は4つに分類される

クローン病における炎症の範囲は、以下の4つに分類されます。

・小腸型……小腸のみに病変がある
・大腸型……大腸にのみ病変がある
・小腸大腸型……小腸と大腸に病変がある
・上部病変……空腸のみに病変がある

図1 病変の範囲による分類

病変

  • 小腸型
    小腸型小腸型

    病変が小腸のみに
    認められる型

  • 大腸型
    大腸型大腸型

    病変が大腸のみに
    認められる型

  • 小腸大腸型
    小腸大腸型小腸大腸型

    病変が小腸と大腸
    両方に認められる型

  • 上部病変
    上部病変上部病変

    病変が空腸のみに
    認められる型

CDAIやIOIBDスコアの活用

クローン病の経過確認においては、CDAIやIOIBDスコアが活用されます。

CDAI※9スコアとは、臨床項目に関するデータから軽症(スコア150~220)・中等症(スコア220~450)・重症(スコア450超)と重症度を判定するものです。CDAIはスコアを求めるために1週間連続したデータが必要で計算式も複雑であるため、臨床研究での使用が中心です。

一方、IOIBD※10とはクローン病が活動期か寛解期かを判定するものであり、スコアが0または1の場合に、寛解状態だと判断されます。IOIBDは比較的簡単に実施できるため、一般的な診療で使用されています。

クローン病の詳しいタイプについては、こちらのぺージを参照してください。

  • ※9

    「Crohn's disease activity index」の略。

  • ※10

    「The International Organization for the study of Inflammatory Bowel Disease」の略。

クローン病の治療

ここでは、クローン病における治療のゴールや具体的な治療方法を解説します。潰瘍性大腸炎と比べ、クローン病の炎症は粘膜だけでなく、腸壁(ちょうへき)の奥深くまで炎症がおよびやすく、腸管の合併症を起こしやすい傾向があります。また、手術が必要となることも比較的少なくありません。

クローン病の治療のゴールとは

クローン病における治療のゴールは、活動期と寛解期で異なります。活動期では「寛解導入療法」を行うことで、炎症をなくし寛解を目指します。一方、寛解期では「寛解維持療法」を行い、長期間にわたって寛解を維持させます。寛解導入療法と寛解維持療法の両方に栄養療法と薬物治療が行なわれ、症状の悪化や合併症の発症などに対しては手術も行われます。

クローン病の具体的な治療方法

クローン病の治療には、以下のような治療方法が用いられます。

栄養療法

栄養状態の改善はもちろん、腸管を刺激しないために一般的には低脂肪・低残渣(ざんさ)※11の食事が求められます。クローン病の場合、免疫が過剰に反応しやすいたんぱく質は分子量の小さいアミノ酸まで分解して摂取します。鼻からチューブを通して直接腸に栄養剤を注入する栄養療法が中心ですが、時に血管から栄養を注入することもあります。

血球成分除去療法

血球成分除去療法とは、血液中から免疫細胞を取り除く治療法です。免疫細胞が病変部位に集まると炎症につながる可能性があるため、血球成分の除去が実施されます。

薬物治療

薬物治療とは主に5-アミノサリチル酸製薬や免疫調節薬、ステロイドの投与が行われます。

外科治療

合併症の発症などに対しては、手術を実施します。手術による腸管への影響を最小限にするため、切除範囲は小規模にとどめることが多いです。

クローン病の詳しい治療については、こちらのページも確認してください。

  • ※9

    「Crohn's disease activity index」の略。

  • ※11

    消化しにくい食物繊維が少ないこと

患者数と推定発症年齢

日本における患者数は4万人を超え、発症時年齢は10~20代が最も多く、若年者に起こりやすいのが特徴です(図1、図2)1)。男性は20~24歳、女性では15~19歳の発症が多く、男女比は2:1で男性が多い疾患です。

図1 特定医療費受給者証所持者数
クローン病医療受給者証交付件数の推移
難病情報センター 特定疾患医療受給者証所持者数(http://www.nanbyou.or.jp/entry/1356)(2022年9月アクセス).
厚生労働省 衛生行政報告例(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/36-19.html)(2022年9月アクセス).(作図)
図2 クローン病の推定発症年齢
クローン病の推定発症年齢
難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/)(2022年9月アクセス)

クローン病の考えられる発症原因

クローン病が発症する正確な原因はまだ分かっていません。近年の研究により、遺伝的素因、食事や喫煙などの環境因子などさまざまな要素が背景として関わり、その結果、免疫異常が引き起こされクローン病が発症するのではないかと考えられています。また、免疫機能の主役である白血球(顆粒球、単球、リンパ球)が異常に働き、慢性的な炎症が引き起こされていると考えられます。

クローン病の考えられる発症原因
新井万里, 金井隆典: IBDを日常診療で診る(日比紀文, 久松理一 編), 24-31, 羊土社, 2017.(改変)

【もっとくわしく!】クローン病の発症因子

クローン病に関係する遺伝的素因として、欧米ではNod2(IBD1)という遺伝子の機能欠損多型やHLA※12の多型に強い影響を受けていると報告がありますが、日本人ではNod2との関連は、はっきりしていません。日本人でのクローン病の感受性遺伝子※13については現在解析中です。

  • ※12

    白血球の型

  • ※13

    ある特定の病気において発病のしやすさに関係する遺伝子

クローン病の食事と献立

クローン病の治療中は、食事と献立に気を配ることが大切です。消化管に炎症がある場合には、以下のような特定の食品を避けることが有用な場合があります。

・脂肪分や油分の多い食品
・消化されにくい繊維質
・香辛料などの刺激物
・アルコール類など

また、日頃から病気の活動性(寛解期または活動期)や病変の範囲などを考慮して、主治医や管理栄養士と相談しながら考えていきましょう。もし自己判断で勝手に食事を控えてしまうと、栄養不良の原因にもなりかねません。自身の症状に最適な食生活を心がけましょう。

詳しい食事や献立については、こちらのページを参照してください。

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