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潰瘍性大腸炎の治療とは?
治療法や治療薬の種類、新薬について解説

【監修】横浜市立大学附属市民総合医療センター
炎症性腸疾患(IBD)センター 内科担当部長
国崎玲子 先生

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潰瘍性大腸炎の治療は、長期的に寛解を維持し、健康な人と同じ日常生活を送れることをゴールとしています。具体的には薬物治療や血球成分除去療法、外科手術が行われます。
本記事では、それぞれの治療方法を詳しく解説します。
また、潰瘍性大腸炎の新薬についても紹介するのであわせて確認しましょう。

潰瘍性大腸炎の治療の流れ

大腸に炎症をみとめ、潰瘍性大腸炎と診断されたら、患者さんの生活状況や重症度を考慮しながら内服治療を行っていきます。大腸に炎症がある状態から、腸の炎症が消失して「寛解※1」を目指す治療を「寛解導入療法」と言います。

寛解導入療法により炎症が治まってきたら、「寛解維持療法」へと切り替えを行います。「寛解維持療法」とは、「再燃(寛解期に再び病状が悪化すること)」の防止を行い長期的に「寛解」の維持を目指す治療を指します。「寛解維持療法」を継続することで、寛解状態を維持し、一般の健康な人と同じような生活を送れるようにすることを目的としています。

潰瘍性大腸炎で実施される治療は、主に薬物療法や血球成分除去療法(けっきゅうせいぶんじょきょりょうほう)、外科手術があります。内科的治療では、炎症範囲や重症度に応じて「経口剤」、「座薬」、「注腸剤」、「注射剤を用いる薬物治療」や、「血球成分除去療法」を行います。内科的治療で効果が不十分だった場合には、外科手術を検討する場合があります。

症状が再燃した場合には、「寛解導入療法」を再開し、寛解を目指します。「寛解維持療法」の実施中に再燃した場合、前回の活動期に行っていた「寛解導入療法」で必ずしも症状が改善しないこともあり、その場合はあらたに治療法を検討する必要があります。

治療により症状が軽快しても自己判断で治療をやめるのではなく、医師の指示のもと毎日の服薬を欠かさないことを心がけてください。

  • ※1 寛解:

    病気の症状が治まり、安定した状態のことです。活動期と寛解期については病期の分類も参照してください。

① 薬物療法

潰瘍性大腸炎の薬物治療で用いられる薬はさまざまな種類があります。主に「5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤」と「ステロイド製剤」を使用して治療を行います。その他にも「免疫調節薬」や「生物学的製剤」が用いられます。ここでは、薬の剤形や対象となる病状、薬の特徴などについて詳しく解説します。

5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤

剤形:経口剤、注腸剤、坐剤

主な対象
全ての病型の軽症~中等症の方(経口剤、注腸剤、坐剤)、直腸炎型の方(注腸剤、坐剤)など

特徴
潰瘍性大腸炎治療の基本となる薬剤です。内服した薬は腸で放出され、全身の免疫を抑えることなく、直接腸の粘膜の炎症を抑えます。寛解の導入だけでなく寛解の維持にも用いられます。注腸剤や坐剤は、直腸やS状結腸(けっちょう)に直接薬剤を届けます。そのため、とくに直腸炎型の方や左側大腸炎型の方に有用であると考えられています。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療について〜薬物療法:5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤

ステロイド

剤形:経口剤、注射剤、注腸剤、坐剤、フォーム剤

主な対象
5-ASA製剤の効果が不十分だった方(経口剤)、重症や劇症の方など(注射剤)、直腸炎型・左側結腸炎で、軽症~中等症の方など(注腸剤、坐剤、フォーム剤)

特徴
現在起こっている炎症を抑える作用があり、経口剤や注射剤は、効果発現が比較的早いとされています。基本的には寛解の導入時に使用し、徐々に中止していきます。注腸剤や坐剤、フォーム剤は、直腸やS状結腸に直接薬剤を届けます。そのため、とくに直腸炎型の方や左側大腸炎型の方に有用であると考えられています。一方、潰瘍性大腸炎の炎症を予防する効果はないため、再燃予防を目的として漫然と使用することは避けます。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療について〜薬物療法:ステロイド

免疫調節薬

剤形: 錠剤、散財

潰瘍性大腸炎では免疫の異常によって炎症が起こるため、炎症の要因であるリンパ球の増殖を抑え、腸内の免疫異常を調節します。効果発現に比較的時間がかかるため、寛解の維持に用いられます。治療中は、症状や血液検査の値などを参考にしながら、患者さん個々に応じた用量調整が行われます。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療について〜薬物療法:免疫調節薬

カルシニューリン阻害薬

剤形:経口剤、注射剤(※注射剤は保険適応外)

主な対象
難治中等症~重症・劇症の方、ステロイドの減量が困難な方、ステロイドが効きにくい方など

特徴
リンパ球の増殖にかかわる「カルシニューリン」という物質の働きを抑え、免疫を抑えます。用量調節のために頻回に採血を行い、血中の薬物の濃度を調節します。即効性等の有効性を期待して投与されますが、通常、長期間の維持投与は認められていません。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療について〜薬物療法:カルシニューリン阻害薬

生物学的製剤

生物学的製剤とは化学的に合成したものではなく、生体が作る物質(タンパク質)を薬物として利用する薬のことです。従来の治療ではなかなか炎症を抑えられない場合に用いられる強力な治療薬です。寛解の導入だけでなく寛解の維持にも用いられます。

JAK(ジャック)阻害剤

剤形:経口剤

主な対象
中等症~重症の方、ステロイドの減量が困難な方、ステロイドが効きにくい方など

特徴
JAK阻害剤は免疫細胞の中のJAK(ジャック)といわれる伝達経路を阻害することで、炎症を活性化するサイトカインという物質の過剰な産生を抑えます。寛解の導入だけでなく寛解の維持にも用いられます。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療について〜薬物療法:JAK(ジャック)阻害剤

α4β7/α4β1インテグリン阻害剤

剤形:経口剤

主な対象
中等症~重症の方

特徴
活性化白血球が腸に入って炎症を起こすのをブロックします。寛解の導入だのみ用いられ、投与期間は通常2か月、最長6か月までとされています。

α4β7/α4β1インテグリン阻害剤

② 血球成分除去療法

療法

主な対象
中等症~重症の方、ステロイドの減量が困難な方、ステロイドが効きにくい方など

特徴
静脈から血液を抜き取り、過剰な免疫を起こしている血中の細胞だけを除去して、血液を体内に戻す透析のような治療です。寛解の導入、および寛解の維持にも使用されます。安全性の高い治療ですが、効果はゆっくり現れるため、症状が激烈な方には向きません。保険適応になる治療回数には上限があります。

③ 潰瘍性大腸炎の外科治療

潰瘍性大腸炎の外科治療

主な対象
内科的治療によって腸炎の改善が得られない方、大量下血や穿孔を伴う重症や劇症の方、潰瘍性大腸炎によって生じた大腸癌を伴う方、など

特徴
炎症が主に発生する部位である大腸を摘出し、小腸で作った大腸の代わりとなる袋を肛門につなげます。患者さんの状況によりますが、原則として永久人工肛門になることはありません。いくつかの手術の方法があり、患者さんの状態に応じて選択されます。

【もっとくわしく!】潰瘍性大腸炎と新薬

潰瘍性大腸炎はいまだに発症原因が分からず根治が難しい病気ですが、治療薬は進歩し続けており、一定の効果が期待できる新薬が次々と登場しています。新たな治療薬が承認されたことで、ステロイドなどの今までの治療で効果が出なかった方への治療選択肢が広がりました。さらに難治例にも対応できるようになるなど治療に明るい兆しが見られています。潰瘍性大腸炎の治療の基本となる「5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤」や中等症から重症に投与される「生物学的製剤」にも新しい薬が登場しています。中には1日1回の投与で済むものなど、患者さんへの負担も大きく軽減されています。新薬について気になる患者さんは主治医に相談してみましょう。