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寛解期のメンタルケアとは?

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青山 伸郎先生 青山内科クリニック(胃大腸内視鏡/IBDセンター) 院長

青山 伸郎先生 
青山内科クリニック
(胃大腸内視鏡/IBD)院長

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)と診断された方へ

最近のIBD(炎症性腸疾患)治療の
進歩は目覚ましく、
なかなか寛解に至らず
日常生活に支障をきたし
食事制限が強調されていた
数年前とは一変しています。
適切な治療選択により
大部分の方は寛解に入り
通常の生活を送ることができますので、
納得した治療選択と
治療を遵守するためには
SDM(Shared Decision Making・共同意思決定)が重要です。

多く登場した治療から適切な治療を行うことで寛解(粘膜治癒)に入ると少々のストレスがあっても再燃を回避できます。しかしストレス社会でIBSなどIBD増悪以外の症状との見極め、対応が重要です。

ストレスがIBD再燃に関連する報告は多数あり否定するわけではありませんが、薬剤治療で寛解に入れることができなかった時代の話を、そのままここ数年の状況に当てはめてはいけません。治療の進歩で、少々のストレスがあってもIBDの再燃は回避できる可能性が高く、逆に言うとストレスでIBDが再燃するのは寛解(粘膜治癒)に十分に至っていなかったことも考えられ治療の再考が必要です。

IBDが寛解であれば、薬の副作用やガン化など長期予後の精神的なQOL低下が多くなります。IBD治療は毎年次々に登場し、寛解導入に優れた治療や長期安全性に優れた治療など、多岐にわたっています。また来院回数、医療機関滞在時間などにも差があります。一番悩んでおられる事項が何かご相談いただくことで、変更できる治療の選択肢のご提案が可能な場合が少なからずあります。ここでもSDMは重要であり、本院では十分な資料とともにいつでもスタッフも対応できる体制を整えています。純粋にメンタルストレスがある場合は心療内科へご紹介をしたり、IBS(過敏性腸症候群)症状で仕事に支障をきたすなど社会的な問題であれば両立支援制度もあり、専門コーディネーターの出番になります。メンタルの対応、両立支援はIBD専門の医療従事者が対応するのには限界があります。IBDを診ている主治医やスタッフはメンタルにおける不調や就労・就学における支障がないかに気付き、常にアンテナをはり拾い上げることが重要ですが、メンタルにおける不調への対応は専門の心療内科が行うべきであり連携・紹介することになります。また就労・就学での支障は専門のコーディネーターとの連携で、必要があれば両立支援制度を用いて対応することになります。本院では専門コーディネーターが非常勤で勤務しており、勤務先・通学先とのトライアングルで解決できる体制を整えています(安全配慮と合理的配慮では比重が異なる点については後述しております)。SDMはIBDを診ている主治医・スタッフの仕事ですが、メンタルにおける対応・両立支援は専門的な対応が重要です。IBDを診ている主治医・スタッフが直接対応するべきといった論調がありますが、日ごろの診療でそれらの拾い上げを担い、専門家への橋渡しや協力のもとに解決すべきものと考えます。

病状の変化を早期に見出すために身体的な記録をつけることが有用ですが、本院では受診に身体的症状、メンタル症状の問診だけでなく自由記載も準備しており、幅広く拾い上げられるようにしています。

自分の体ですので変化があればわかりますし、本院では来院前1週間の状況を毎回来院時に記載していただきカルテに残していますので遡れます。下痢で排便回数が増えれば即IBDの増悪とされ治療を強化されてしまうことがないよう、IBDの増悪なのか、IBSの合併なのかの見極めが重要です。UC(潰瘍性大腸炎)は血便の有無が鑑別になることが多いですが、CD(クローン病)では血便は指標になりにくく、LRGや便カルプロテクチンでなくても従来のCRPやALBなどの採血で評価しやすいです。もちろん大腸内視鏡検査による画像評価で正確に診断し治療方針決定が重要ですがCDでは小腸カプセルによる評価が重要であり、本院では治療評価、経過観察にきめ細かく対応しています。また症状が不安定な場合はUCでも小腸カプセルで精査を行うと、実はCDであったことが判明する場合もあります。

  • LRG (ロイシンリッチα2グリコプロテイン)・便中カルプロテクチン・CRP(C-リアクティブ・プロテイン):炎症の指標となるバイオマーカー 旧来用いられていたCRPより腸管炎症を的確に反映するとされ最近使用できるようになったが、保険適用では3ヶ月に1回、かつ大腸内視鏡検査と同月には測定できない

  • ALB:炎症でも低下するが、小腸機能の指標であり、特に小腸クローン病の状況把握に用いる

治療の進歩により寛解に入れる可能性は非常に高く、寛解に入れていない場合は食事やストレス回避ではなく治療を再考することがまず重要です。寛解に入っていてもIBS症状がある場合にはメンタルケアのため心療内科へのご紹介やお仕事に支障をきたしている場合は両立支援への橋渡しができることを知っておいてください。

有用な治療がない疾患は、食事、身体負荷、ストレス回避などをせざるを得ないわけですが、IBDではここ数年多くの治療選択肢が登場し、適切な治療選択で寛解導入、寛解維持が可能です。本当に難治の一部を除き、寛解に入れない場合は治療の再考を行う=主治医の責任がますます大きくなったわけです。難治例は食事療法やストレス回避では治りませんので、日常生活での制限を過度にご負担に思わず、納得できる治療選択、そして治療遵守をお願いいたします。適切な治療が行われていれば、ストレス、メンタルケアが関与するのはIBDの再燃ではなくIBSが主体です。IBDの発症前にIBSであった方は多くおられ、発症前にIBSがなかった方でもIBD発症で腸管ダメージが加わると、IBDが寛解になってもIBS症状が出ることがあります。潰瘍性大腸炎、クローン病ではステロイド薬などで症状が改善するかどうか、IBSであれば5-HT3受容体拮抗薬で症状が改善するかどうかで見極めます。また下痢・便秘など便通異常を伴う腹痛は腸が原因ですが、普通便での腹痛は腸以外の精査が重要です。
適切な治療のためには、毎年非常に多くの治療が登場している現在、IBD治療の専門性がさらに高くなったことは言うまでもありません。

活動期、寛解期における治療選択肢とQOL低下の変化

活動期、特に活動性が高い場合(A)であれば、十分に対応できる強い治療が必要になるので薬剤の選択肢は狭まり主治医のIC(インフォームドコンセント)による治療決定が主体になりますが、寛解期や活動期でも病勢に余裕がある場合(B)は、長期予後、薬の安全性、利便性などを考慮する選択も可能となり、個々が優先する価値観をもとにSDMによる治療決定が可能になります。
QOL低下も(A)では腹痛や排便など身体的なものが主体であり、両立支援も【安全配慮】の立場から就学、就労において主治医が主体となりコーディネーター、勤務先、通学先の担当者に検査や治療で休む必要があれば診断書で万全を尽くすことになりますが、述べてきましたように多数の有効な治療の出現により多くは生活制限なしで寛解へ向かい身体的QOL低下は軽減し就学、就労に支障は回避できる時代になりました。一方、寛解期や活動期でも病勢に余裕がある場合のQOL低下は(B)では長期予後、薬の安全性、利便性など精神的なものが主体になります。この時期の就学、就労における両立支援は【合理的配慮】であり、勤務先、通学先の担当者とコーディネーターが主体になり本人と対応を決めることが重要です。身体的な負荷はIBS治療となり、これを超えるメンタルケアは心療内科など専門医への橋渡しが主治医の役割です。この段階で日常生活制限を中心に据えた両立支援主治医意見書の意義は不明であり、(A)(B)のどちらの段階なのかを主治医はしっかり示すことが重要です。そして、多くの治療選択肢からはやく寛解に入れることが最も重要な主治医のタスクです。

IBD-【寛解期のメンタルケアの重要性】活動期、寛解期における治療選択肢とQOL低下の変化 *文献1の結果を元に文献2でAoyamaが作成

ポイント

  • ・寛解期のセルフチェックは、再燃症状を早期に見出すことが重要(特にIBSとの鑑別)。
  • ・再燃予防のために食事、睡眠、ストレスなど日常生活の過度の制約は不要であり、再燃も生活習慣ではなく薬物治療で対応できる。
  • ・メンタルケアが「セルフケア」を超えれば心療内科の範疇となる。
  • ・活動期の両立支援は「安全配慮」であり、診断書(主治医から産業医へ)により万全を尽くす必要がある。
  • ・寛解期の両立支援は「合理的配慮」であり、IBDではなくIBSやメンタルケアに対する配慮が主体となる。勤務時間や通勤時間などを念頭においた主治医意見書の妥当性を含めて論点を整理する必要がある。
  • 文献1 Takahashi M, Aoyama N, Nunotani M. Disease burden of patients with inflammatory bowel disease from the viewpoint of QOL and depression. J Crohn Colitis 2020; 14 (Supplement_1): S658–S659. https://doi.org/10.1093/ecco- jcc/jjz203.987
  • 文献2 Aoyama N, Shimizu T. Approach to the Seamless Management of Inflammatory Bowel Disease, Considering Special Situations, Shared Decision-Making, and Disease Burden. Digestion. 2021; 102:12-17. doi: 10.1159/000511481. Epub ahead of print. PMID: 33238288.